近年ChatGPTをはじめ、数々の生成AIツールが登場しています。

そんな中、Google社は2024年5月14日で開催した年次会議において、生成AIが搭載された検索エンジン「AI Overview」を公表しました。

Googleでは元々SGEというツールを公開していましたが、AI Overviewはさらなるアップデートが行われ、生成AIとWeb検索の融合を実現しています。

そこで今回は、Googleが提供する「AI Overview」の特徴や旧SGEとの違い、SEOやWebマーケティングにどのような影響をもたらすのか解説します。

 

 

AI Overviewとは?

AI Overviewとは、Google検索でユーザーが入力した検索キーワードに対して、複数のWebサイトから情報を抽出し、生成AIが自動的に要約文を作成して検索結果の上部に表示させる機能です。

Googleで検索をかけた時に「AIによる概要」という表示と、検索キーワードに対する回答が記載されているのを見かけたことがある人も多いでしょう。

AI OverviewをGoogleが機能として取り入れたことによって、検索体験の向上を図ることが主な目的です。

AI Overviewに用いられている生成AIモデルは「Gemini」を使った機能で、2024年5月からリリースされています。

最初はアメリカ国内のみのリリースでしたが、2024年8月からは日本のGoogleでも利用できるようになりました。

 

旧SGEとの違い

元々AI Overviewは、2023年8月から日本語版の試験運用が開始された「SGE(Search Generative Experience)」をアップデートし、改名したものになります。

単にアップデートをしたわけではなく、実際には設定や搭載されている機能など様々な違いがあります。

例えばSGEは「Search Labs」と呼ばれる実験プログラムの中だけで提供されており、Search Labsに登録したユーザーのみが使えていました。

しかし、AI OverviewはGoogle検索のデフォルト機能として搭載されており、登録などを行わなくても誰でも自由に利用できます。

また、AI Overviewのアップデートと共にGeminiのカスタマイズも行われ、検索エンジンで活用できる機能の改善・追加が行われました。

その結果、SGEは検索キーワードに対する概要文の作成・表示までに留まっていましたが、AI Overviewでは概要の表示だけでなく、関連情報の表示や会話形式による情報検索にも対応できるようになったのです。

 

AI Overviewの新たな機能

AI Overviewの新たな機能は、主に6つあります。

各機能について解説していきましょう。

 

選べる3つのモード

AI Overviewは表示する概要を調整できる3つのモードが搭載される予定です。

Original(標準モード)

初期設定のOriginalは、生成AIによって概要文や関連情報がチェックできます。

Simple(簡略モード)

より分かりやすく、要点だけをまとめた概要文にしたい場合はSimpleが役立ちます。

難しい専門用語を使ってほしくない場合などにもおすすめです。

Break it down(詳細モード)

Originalよりも詳しい情報を知りたい場合は、Break it downに切り替えます。

各ポイントを掘り下げて説明してくれています。

 

英語版Search Labsでは一部のAI Overviewに対してすでに提供がスタートしているものの、日本ではまだ実装されていません。

今後実装されることを期待しましょう。

 

より複雑な質問・タスクにも対応

Geminiのモデルがアップデートされたことにより、AI OverviewはSGEに比べてより複雑な質問にも対応できるようになりました。

例えば質問を複数の検索に分割するのではなく、細かいニュアンスや表現、注意点なども含んだ質問・タスクに同時に対応できます。

例えば東京都品川区でランチがおすすめのレストランと品川駅からの距離、さらにお得なクーポン情報がないか検索したい場合、通常のGoogle検索であれば1つずつ検索する必要がありましたが、AI Overviewならまとめて検索することが可能です。

 

計画の作成支援

AI Overviewを活用すれば、単に検索キーワードに対する概要を作成するだけでなく、計画の作成もサポートしてもらえます。

例えば長期休暇を利用して北海道に3泊4日の旅行を予定している場合、Google検索で旅行計画の作成を依頼すると、おすすめの観光スポットなどを盛り込んだ旅行計画を作成してくれます。

また、毎日の献立を考えるのは大変ですが、AI Overviewを活用することで数日分のレシピをまとめて提案してもらうことも可能です。

 

動画・音声を使った検索

通常Googleなどで検索をかける時はテキスト入力になりますが、AI Overviewを活用すると動画や音声を使って検索をかけられるようになります。

例えば文字で表現するのが難しい場合には、音声で直感的に検索をかけたり、スマホのカメラで動画を撮影しそのまま検索をかけたりできます。

 

広告表示

AI Overviewの機能により、概要文の上部または下部に広告が表示されるようになっています。

例えば「排水口の汚れを落とす方法」と検索すると、AI Overviewがその内容をまとめた概要文を生成し、その周囲に排水口掃除に効果的な商品のショッピング広告が表示される仕組みです。

このように、ユーザーの検索意図にマッチした広告が自動で表示されるため、実際にその広告から商品を購入するケースも増えると考えられます。

なお、これらの広告はAI Overviewにより自動で表示されるため、広告主が個別に設定する必要はありません。

ただし現時点では、AI Overview単体での広告パフォーマンスを個別に測定することはできないとされています。

 

Googleサーチコンソールのレポート対応

Googleサーチコンソールのレポート対応も新たに追加されました。

SGEの場合、アクセス数やトラフィックなどはサーチコンソールに反映されていなかったものの、AI Overviewは出力した概要文の表示・流入数も含め、データが記録されます。

ただし、通常の検索機能と分離されずにまとめて記録されることから、例えばAI Overviewのトラフィックかどうかを特定できない点には注意してください。

 

 

AI OverviewによるSEO・Webマーケティングへの影響

日本国内ではまだ本格的な機能の実装は行われていないものの、将来的には上記で紹介したほとんどの機能が実装されると予測されます。

もしAI Overviewが本格的に実装された場合、SEOやWebマーケティングにはどのような影響をもたらすのでしょうか?

 

ゼロクリック検索の増加に伴うCTRの減少

AI Overviewは、現在Knowクエリ(特定の情報を知りたいユーザーの意図を示すキーワード)で調べた場合に表示される傾向があります。

Knowクエリなら検索結果に表示されたサイトを見なくても、AI Overviewによって知りたい情報が確認できるため、ゼロクリック検索が増えると考えられます。

ゼロクリック検索が増えれば、SEO対策によって検索結果の上位に表示された場合でも、ユーザーは上部にあるAI Overviewの結果を見て満足してしまうため、CTR(クリック率)の減少につながってしまいます。

これまではKnowクエリでCVR(コンバージョン率)が低かった場合でも、検索結果に上位表示され、トラフィックを大量に獲得すればある程度のコンバージョンを獲得することも可能でした。

しかし、今後はKnowクエリによるトラフィック獲得が難しくなることで、Knowクエリ自体のSEO対策の重要度も下がる可能性があります。

 

他のクエリの価値が高まる

Knowクエリの重要度が下がってしまう一方で、Goクエリ(○○に行きたい)・Doクエリ(○○がしたい)・Buyクエリ(○○を買いたい)といった他のクエリの価値が高まると予想されています。

なぜなら、GoクエリやDoクエリ、BuyクエリはAI Overviewによって作成された概要文やポイントだけでは検索ニーズを満たすのが難しいためです。

例えばニキビ対策のスキンケア用品を購入しようと考え、「ニキビ対策 スキンケア用品」で検索したとします。

AI Overviewではショッピング広告を表示することも可能になりましたが、実際に購入するためにはECサイトへアクセスする必要があります。

このように、AI Overviewだけで完結させるのが難しいことから、Goクエリ・Doクエリ・Buyクエリの価値が高まると言えます。

 

リスティング広告のクリック数減少

リスティング広告とは、ユーザーの検索キーワードに合わせて表示されるWeb広告です。

検索キーワードと連動してテキスト形式でWeb広告が表示されます。

リスティング広告の大きなメリットは低予算でも広告を出稿しやすいことと、検索結果の上位に表示できるためクリックされる可能性が高いことが挙げられます。

しかし、AI Overviewはリスティング広告よりも上に表示されることから、ユーザーがリスティング広告まで視線が届きにくくなり、表示はされているもののクリック数が減少する可能性が高いです。

そうなるといくら低予算で広告を出稿できたとしても十分なクリック数が見込めなければ広告費用を無駄にかけてしまうことになります。

ただし、Googleの収益源はWeb広告の出稿費用であり、リスティング広告に出稿する企業が減ってしまえばGoogle側にも大きな影響が出てきてしまいます。

そのため、将来的にAI Overviewの調整などによって、広告の表示方法などが工夫される可能性はあるでしょう。

 

 

AI Overviewを利用する際の注意点

AI Overviewを利用する上で、いくつか気を付けるべきポイントがあります。

 

ハルシネーションのリスクがある

AI Overviewに限った話ではありませんが、生成AIによって生み出された情報は間違っている可能性もあります。

生成AIは学習データの情報を元に回答を生成しますが、その過程で間違った情報や文脈と合っていない情報を生み出してしまうこともあるのです。

これを「ハルシネーション」と言います。

AI Overviewを含め、生成AIにはハルシネーションのリスクが伴いますが、2025年5月時点でハルシネーションのリスクを完全に回避することはできません。

そのため、AI Overviewを利用する際はハルシネーションのリスクがあることを意識し、情報が正確か確認する必要があります。

 

情報源が偏ったり多様性が欠如したりする可能性もある

AI Overviewが概要文を生成する際に複数の情報源から必要な情報を抽出し、統合して生成します。

しかし、情報を抽出した複数の情報源が偏ってしまう場合もあり、少数意見や異なる意見などが反映されない可能性もあるでしょう。

特に情報源の偏りによって起きやすいのが、多様性の欠如です。

AI Overviewによって表示された回答が、多様性を欠いている可能性があることも理解しておきましょう。

 

 

今回は、Googleがリリースした「AI Overview」についてご紹介してきました。

2024年5月に導入されてから日本国内にも導入されたものの、まだ本格的な機能の導入には至っていません。

しかし、近い将来AI Overviewのすべての機能が日本でも導入される可能性は高いです。

AI Overviewが本格導入された場合、SEO対策やWebマーケティングにも影響する可能性があるため、注視するようにしましょう。