SNSや掲示板などで企業に対する意見を受け、その情報をもとに商品・サービスなどを改善していくことでより質を高めていくこともできます。

しかし、中には単に企業や関わった人を傷付けるだけの誹謗中傷を受けてしまうこともあるでしょう。

そんなSNSなどで誹謗中傷を受けた個人・法人を守るために、「プロバイダ責任制限法」という法律が存在します。

プロバイダ責任制限法は2025年4月から新たに「情報流通プラットフォーム対処法」と名称を変え、施行されています。

そこで今回は、情報流通プラットフォーム対処法の改正ポイントについて、詳しく解説していきましょう。

 

プロバイダ責任制限法とは?

プロバイダ責任制限法とは、人権を侵害するような投稿に対して、被害者を救済するための対策を整備するための法律です。

現行のプロバイダ責任制限法では、以下の制度に関して定められています。

 

サイト管理者の責任制限

誹謗中傷にあたるような権利を侵害する投稿について、被害者側から削除要請があった場合、サイトの管理者は素早く削除に応じた方が良いでしょう。

しかし、サイトの管理者が投稿を削除したことによって、投稿者に損害が発生する可能性もあります。

投稿者側は損害が発生したとして、管理者に対し賠償請求を行う可能性もあることから、管理者は削除を躊躇ってしまうケースが多いです。

プロバイダ責任制限法では、条件を満たしていれば投稿を削除したとしても、サイトの管理者が被る責任を制限でき、素早い削除対応につながります。

 

投稿者の情報開示

権利を侵害するような投稿は匿名で行われていることから、被害者側は投稿者を投稿するのに時間がかかってしまいます。

しかし、プロバイダ責任制限法には発信者の情報を開示請求するための制度があり、被害者から開示を求められた場合、サイト管理者やネットワーク接続業者は投稿者の情報を開示する仕組みが整えられました。

また、2022年10月の改正で発信者情報開示命令が新たに設けられ、さらに投稿者の情報開示がスムーズに行えるようになっています。

 

プロバイダ責任制限法の問題点

プロバイダ責任制限法は誹謗中傷された被害者を救済するための法律ですが、いくつか問題点も見られます。

例えば違法にあたる投稿や有害な投稿に対して、プラットフォーム事業者などは削除を義務付けるような定めはありません。

そのため、被害者が加害投稿を削除するためには、プラットフォーム事業者に対して投稿を削除するよう請求するために、裁判手続が必要となります。

裁判手続は被害者にとって金銭的な負担が大きいことや、削除されるまでに時間がかかってしまうことから、実際に利用されるケースはほとんどありませんでした。

また、プラットフォームによっては削除の申請をどこから行えば良いのかわかりづらかったり、海外に本拠地を置く事業者の場合は日本の法令や被害実態について十分に考慮されていなかったりするなども問題として挙げられます。

これらの問題点を改善し、事業者による自主的な削除が適切に行われるためにも、法改正が行われたのです。

 

プロバイダ責任制限法から情報流通プラットフォーム対処法へ!改正のポイント

2024年5月17日にプロバイダ責任制限法から「情報流通プラットフォーム対処法」に改正される法律案が可決・公布されました。

施行日は2025年4月1日からとなります。

プロバイダ責任制限法から情報流通プラットフォーム対処法に改正されたことで、どのような変化があったのでしょうか?

改正のポイントについて解説していきます。

 

法律名の変更

現行の「プロバイダ責任制限法」は通称で、正式な名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限および発信者情報の開示に関する法律」と言います。

プロバイダ責任制限法は、主にプロバイダの損害賠償責任に関する制限と、発信者情報の開示請求を行う権利や、発信者情報の開示命令に関する裁判手続についてまとめられています。

一方、改正法によって大規模プラットフォーム事業者が持つ義務がプラスされたことにより、「情報流通プラットフォーム対処法」へと名称変更されることが決まりました。

 

大規模プラットフォーム事業者の指定

大規模プラットフォームの場合、利用者数や投稿数の多さから短時間で被害が大きくなる恐れがあります。

しかし改正法の中で課す義務は、事業者にとって経済・実務的に負担が大きいと言えることから、改正法では大規模プラットフォーム事業者の要件を定めています。

事業者として指定される要件は以下のとおりです。

・月間発信者数が国内で1,000万件以上、月間延べ数が国内で200万件以上

・侵害情報送信防止措置(削除)を講ずることが技術的に可能

・権利侵害が発生する恐れの少ないサービス以外のもの

なお、この法律は外国企業も含めて指定され、該当する事業者は総務大臣に届出を提出する義務があります。

 

削除対応の迅速化

大規模プラットフォーム事業者に指定された場合、削除対応を迅速化することが義務付けられます。

具体的には、被侵害者から削除の申し出を受け付けられる窓口を設置し、公表する義務があります。

また、侵害情報に関わる調査を素早く行ったり、侵害情報送信防止措置を実施するかどうかを申し出から14日以内に判断し、申し出者にも通知したりしなくてはいけません。

 

運用状況の透明化

これまでは権利侵害の明白性要件が確立されていましたが、外国企業の利用規約が日本の法令などを考慮していないなどの問題点や、事業者側が勝手に削除をする可能性があるなどの懸念点も多くみられていました。

改正法ではこれらの問題を改善するために、プロバイダは透明性のある具体的な削除基準を策定することが義務付けられています。

また、実際に削除をした場合はその旨について発信者に通知、または容易に知り得る状態をつくることが義務付けられました。

さらに、大規模プラットフォーム事業者は毎年1回、各義務に基づく削除の実施状況を公表する義務もあります。

最低限公表しなくてはいけない情報は、以下のとおりです。

・削除申し出の受付状況

・削除の申し出に対する通知の実施状況

・投稿を削除した際に発信者へ向けた通知の実施状況

・削除の実施状況

・上記項目に対する自己評価

・削除実施状況を明確にするために総務省令で定められた事項

 

勧告・罰則の新設

大規模プラットフォーム事業者に課せられた義務は必ず守らないといけません。

もし義務に違反した場合、総務大臣は違反した内容を是正するための措置を講ずるべきと勧告できます。

しかし、総務大臣からの勧告に対して何も講じなかった際には、措置命令が下されます。

措置命令にも違反すると、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に科されるので注意が必要です。

なお、両罰規定によって法人は第21条・第35条を違反すると、1億円以下の罰金が科されてしまいます。

 

企業が誹謗中傷を受けた場合、どうすればいいのか?

万が一企業がSNSなどで誹謗中傷を受けてしまった場合、対策を講じる必要があります。

例えば事実関係の確認を行い、事実と異なった情報なのか、法的措置は必要かどうかを判断します。

情報流通プラットフォーム対処法によって各事業者は削除申し出の窓口を設置することが義務付けられたため、これまで以上に削除申し出の手続きが行いやすくなりました。

そのため、削除が必要と判断した場合、すぐに窓口から削除を申し出ることになります。

ただし、SNSは一気に情報が拡散されてしまうことから、誹謗中傷の内容が拡散され、ネガティブなイメージにつながってしまうこともあるでしょう。

このような状態を回避するためにも、迅速に対応するためのマニュアルを事前に作成したり、早期に誹謗中傷の投稿を発見できるよう監視したりするなどの対策も必要です。

 

 

今回は、2025年4月施行の情報流通プラットフォーム対処法に関する改正ポイントをご紹介してきました。

これまでプロバイダ責任制限法によって発信者の開示請求に関する手続きがスムーズになるなど、被侵害者が使いやすい制度として運用されていました。

しかし、それでもまだ十分な制度とは言えない状態だったこともあり、今回の改正に至っています。

企業も誹謗中傷を受けてしまった際には、設置が義務付けられた窓口を活用して削除の申し出を行ったり、必要に応じて発信者情報の開示請求を行ったりしましょう。