SNSでの企業アカウントの運用は、低コストでプロモーションができ、なおかつ顧客とのコミュニケーションも図れることから、現代では必須とも言えるマーケティング活動になっています。
しかし、SNSでは心無い言葉を言われてしまったり、不当なクレームを受けたりするケースも増えています。
こうしたトラブルに巻き込まれてしまうリスクを減らすには、事前の対策が必要です。
今回は、企業が誹謗中傷を受けた際の対策方法や、誹謗中傷を未然に防ぐAIツールなどを紹介します。

企業に対する「批判」と「誹謗中傷」の違い

SNS運用を行っていると、投稿内容や自社の商品・サービスについて批判的なコメントが見られることもあります。
「誹謗中傷」と「批判」はイメージとしてよく似ていると感じられるかもしれませんが、実際には意味が異なります。
まず批判とは、相手の発言・行動に対して意見や評価を述べることを指します。
批判を受けて傷付くこともありますが、基本的には根拠に基づく形でのコメントになるため、批判によって相手を貶めようとする悪意はありません。
一方、誹謗中傷は人格や名誉を傷付ける目的で、悪口やデマを言うことを指します。
相手を貶めることが目的であり、悪口やデマの内容も根拠のないものばかりです。

誹謗中傷を受けることで起こるリスク・被害

企業が誹謗中傷を受けてしまうことで、様々なリスクや被害をもたらします。
ここで、具体的にどのようなリスクや被害を受けてしまうのか、解説していきましょう。

企業やブランドのイメージに傷が付く

誹謗中傷を受け、そのまま何も対処をせずに放置していると、企業やブランドのイメージに傷が付いてしまう恐れがあります。
特にSNSは情報が一気に拡散され、誹謗中傷の内容がたとえデマだったとしても、信じてしまう人が出てくる可能性が高いです。
そうなると不買運動やファン離れにつながってしまいます。

ステークホルダーからの信頼が失われる

誹謗中傷の投稿を見たステークホルダーが、その内容を信じてしまい、信頼が失われてしまう可能性も否定できません。
例えばBtoB向けの商品・サービスを提供している企業は、取引先からの契約解除や契約数の減少、BtoC向けの商品・サービスを提供している企業だと、買い控えによる売上低下につながる可能性もあります。

採用活動に悪影響を及ぼす

誹謗中傷によって顧客離れが起きるだけでなく、応募者の数も減ってしまう恐れがあります。
就職活動・転職活動を行っている人は、企業研究として公式サイトだけでなくSNSなどもチェックします。
この時、誹謗中傷の投稿を見てしまい「この会社に応募するのは止めよう」と考えてしまう可能性が高いです。
そうなれば応募者の減少につながり、最終的に人手不足が加速してしまうことも考えられます。

従業員のモチベーションが低下する

たとえ根拠のない誹謗中傷だったとしても、悪い噂が流れてしまうことで従業員のモチベーションが低下するケースもあります。
従業員のモチベーションが下がってしまえば生産性の低下にもつながり、売上の減少や離職者が増えるリスクも高まります。

さらなる炎上にもつながる

誹謗中傷を受けたことで企業が対応すること自体は間違っていないものの、そのやり方を間違えてしまうと、さらなる炎上につながる恐れもあります。
例えば、誹謗中傷の投稿に直接コメントで反論をした場合、誹謗中傷がさらにエスカレートしたり、周りのユーザーも巻き込んで炎上が大きくなったりする可能性も考えられます。
また、反論を受けた相手はこちらが証拠を残す前に、投稿・アカウントを削除してしまうケースもあり、法的措置を取るのが難しくなってしまいます。

SNSで誹謗中傷を受けた際の正しい対応と流れ

万が一SNSで誹謗中傷を受けてしまった場合、企業はどのように対応すべきなのでしょうか?
ここで、誹謗中傷を受けた際の正しい対応と流れについて解説します。

投稿内容が事実なのか確認する

SNSに誹謗中傷のコメントが届いたら、まずはその内容が事実かどうかを確認する必要があります。
投稿内容が全くのデマだったり、内容は事実であるものの切り取られ方によって誤解が生じるものになっていたり、さらに拡散されていく中で尾ひれが付いたりするケースもあります。
また、場合によっては従業員が誹謗中傷のコメントを投稿している可能性もあるでしょう。
投稿内容の事実確認を行うことで第三者によるものか、それとも従業員によるものかを判断できる場合もあります。

証拠を残しておく

誹謗中傷の投稿を発見したら、事実確認と共に証拠を残しておくことも大切です。
SNS上のコメントならスクリーンショット、動画なら録画・録音によって記録できます。
今のところ弁護士・警察に相談する気はなかったとしても、万が一のことも考えて証拠を押さえておくことは大切です。

投稿の削除申請を行う

次に、投稿の削除申請を行います。
SNSや5ちゃんねるなどの掲示板では削除申請のやり方や条件などが公開されているため、手順に基づいて申請するようにしてください。
投稿の削除申請は個人でもできますが、この時点で弁護士に相談しておくとスムーズに削除申請を行ってもらうことができます。

発信者情報の開示請求を行う

匿名で誹謗中傷を書き込まれた場合、相手に対して発信者情報の開示請求を行えます。
発信者情報の開示請求は、プロバイダに対して書き込みをした人の住所や氏名、電話番号などの情報開示を求めます。
ただし、裁判手続きを介さずに行う「任意開示」だと、プロバイダ側が開示請求に応じてくれない可能性もあるため注意が必要です。

公式からの見解をホームページやSNS上に投稿する

ある程度対策が済んだら、公式からの見解をホームページやSNS上に投稿します。
誹謗中傷のコメントを見た人は不安を感じたり、信頼感がなくなったりするケースもあるでしょう。
また、間違った形で情報が拡散されているケースも少なくありません。
そのため、企業側が公式の見解として事実を伝え、今後の方針・対応について説明することが重要となってきます。
ここで適切に伝えることができれば、信頼を再び戻したり、かえって称賛を浴びたりすることもできるでしょう。

弁護士・警察に相談する

削除申請が通らなかったり、法的措置を取れる可能性があったりする場合、弁護士や警察に相談することも視野に入れましょう。
名誉毀損罪・侮辱罪などは被害者側からの告訴がない限り、警察も捜査・起訴ができません。
弁護士に相談すれば、上記のように開示請求の手続きをサポートしてもらったり、法律に基づいたアドバイスをもらったりできます。

誹謗中傷・炎上リスクを防ぐAIツールが続々と登場している

近年はAI技術が目覚ましい発展を遂げており、利便性の高いツールも登場するようになりました。
そんな中で、誹謗中傷や炎上リスクを未然に防ぐAIツールも登場しています。
企業も“誹謗中傷をする側”にならないように、AIツールの導入を検討してみましょう。

AI炎上チェッカー(弁護士ドットコム)

弁護士ドットコムがリリースしたアプリ「AI炎上チェッカー」は、AIが投稿予定の文章をチェック・分析し、攻撃性・差別性・誤解を招く表現の3点で問題はないかを評価してくれます。
例えば、差別しようとする意志はなかったとしても、言葉の選び方を間違えてしまい特定の人に対する差別につながってしまうこともあるでしょう。
しかし、AI炎上チェッカーなら自動で差別的表現や攻撃的な言葉、誤解を招く可能性がある言葉を検出し、危険度レベルもわかりやすく表示してくれます。
また、問題点に対して具体的なアドバイスもしてくれるため、修正作業もしやすいです。
AI炎上チェッカーはクローズドβテストが2025年4月に行われており、その際のフィードバックで誹謗中傷・炎上リスクに対する不安が大きいことから、7月に配信された正式版は無料で提供されることになりました。
無料で利用できることから、誰でも気軽にチェッカーを使えるようになっています。
なお、AI炎上チェッカーには法人向けのツールも用意されています。
こちらは事前リスクチェックに加えて、複数アカウントの統合管理や分析レポートの作成、さらに定期的な運用改善コンサルティングや相談窓口の提供など、手厚いサポートがついて月額5万円~利用できます。

talentbook・広報チェックAI(talentbook株式会社)

talentbookは1,200社以上の支援実績を誇り、10,000本以上のインタビュー記事制作のノウハウが詰まった採用広報ツールです。
そんなtalentbookに社員インタビュー記事の不適切な表現をAIが自動で検出する「広報チェックAI」がリリースされています。
talentbook CMS上にあるコンテンツを対象に、不適切な表現が使われていないかをAIによって調べることが可能です。
文脈を考慮した表現チェックを実現しており、さらに2段階の指摘レベルを取り入れて柔軟な運用も可能にしています。
また、重要な指摘が残っている状態で記事が公開されてしまわないように、自動で公開がブロックされるようになっており、未然に炎上リスクを防ぐことも可能です。

ChatGPTなどの生成AIツールでも炎上対策は可能

専用のツールを導入することによって手軽に投稿内容をチェックし、炎上リスクの回避につながりますが、ChatGPTやCopilotなどの文章生成AIを活用しても、炎上対策を行うことは可能です。
生成AIを活用して炎上対策を行うには、まず投稿する予定の文章をコピペし、さらに具体的な指示と一緒に生成AIへ入力します。
指示の文章は「炎上につながりそうな文章」と曖昧なものより、以下のように具体的な指示にした方が正確に反映される可能性が高いです。

・差別的発言がないかチェックしたい場合
「以下の文章に、性別や人種、性的指向、国籍、宗教などに関する差別的な表現があるかチェックしてください」

・法令に抵触していないかチェックしたい場合
「以下の文章が景品表示法に違反していないか確認してください」

・不適切な表現がないかチェックしたい場合
「以下の文章に、ユーザーの誤解を招く表現や情報、暴力的・攻撃的な内容、一方的な決めつけなどが含まれていないか確認してください」

例えば、投稿内容に「このサプリを飲むだけで痩せる」という表現があった場合、生成AIで問題になるか確認してみたところ、以下の指摘を受けました。

「この表現は、あたかも飲むだけで痩せるような効果があるかのように消費者に誤認を与える恐れがあります。
サプリメントは医薬品ではなく、「痩せる」など明確な効果を謳うには科学的根拠が必要です。」

このように、文章に対して不適切な理由も述べられています。
ここからさらに、生成AIを使って修正案を提示してもらうことも可能です。

炎上対策に生成AIツールを活用する際の注意点

炎上対策として生成AIを活用することは可能ですが、いくつか注意しなくてはいけないポイントもあります。
どのような注意点があるのか、活用する前に把握しておきましょう。

・根拠が不明の文章を生成する恐れがある
生成AIは文章を生成する際に、どこからどの文章を参考にして生成したのか、というプロセスがわからないようになっています。
根拠が不明であるにも関わらず、それが事実のように書かれてしまうことも少なくありません。
また、生成AIは「ハルシネーション」と呼ばれる現象もあり、事実に基づかない誤情報を生成してしまう可能性もあります。
すべての情報が間違っている場合もあれば、一部分だけ誤情報が含まれている場合もあるため、過度に生成AIを信用しすぎないようにしましょう。

・最新情報が反映されていない
生成AIは機械学習で得たデータに基づき、文章を生成しています。
機械学習のデータは定期的に更新されるものの、リアルタイムで反映されているわけではないため、情報が古い可能性も少なくありません。
もし生成AIで作った文章が最新のものではなく、古い情報を元にしていた場合、それに気づかないまま発信すると、誤情報として炎上を招く恐れもあるので注意が必要です。

今回は企業が誹謗中傷を受けた際の対策方法や、誹謗中傷・炎上リスクを未然に防ぐAIツールなどを紹介しました。
誹謗中傷を受けてしまった場合、企業は被害者側になりますが、対応を間違えてしまうとブランドイメージの低下や売上減少などの問題に発展する可能性もあります。
そのため、誹謗中傷を受けてしまった際には迅速な対応が必要となります。
また、企業側も不適切な投稿をしてしまい、炎上につながってしまうリスクもあります。
誹謗中傷・炎上を未然に防ぐためにも、専用のAIツールや生成AIなどを活用してみましょう。