SNSや口コミサイト、掲示板など、誰もが情報を発信できる時代となった今、企業は一度の投稿や噂によって、思いがけない風評被害を受けるリスクと常に隣り合わせです。
「事実と異なる情報が拡散されている」「根拠のない批判が炎上につながってしまった」などの状況に直面した時、焦って誤った対応を取ると、被害がさらに拡大してしまう恐れがあります。
風評被害は、企業の信用や売上、採用活動にまで大きな影響を与える深刻な問題です。
しかし、正しい手順と冷静な判断をもって対応すれば、被害の拡大を防ぎつつ信頼を回復することも可能です。
そこで今回は、実際に風評被害を受けた時に企業が取るべき対策についてご紹介します。
まず行うべき初動対応│被害状況の把握と社内連携
風評被害が発生した際に重要なのは、「どれだけ早く、正確に状況を把握し、社内で共有・連携できるか」です。
被害の性質や拡散状況によっては、数時間の遅れが被害を増加させることもあります。
ここでは、風評被害を受けた時に最初に行うべき初動対応のステップを解説します。
被害の発信源・内容を正確に把握する
まず取りかかるべきは、被害の内容が事実かどうか、どこから発信されたかの確認です。
冷静に事実関係を整理しないまま対応を始めると、誤解が広がったり、新たな批判を招いたりするリスクがあります。
・話題になっている投稿や記事のURL・キャプチャ・発信者の特定
・事実関係の確認(社内資料や関係部署にヒアリングを行い、記載内容が事実か検証)
・拡散状況の把握 (SNSのRT数・コメント数、炎上チェッカーなどで拡散の規模・スピードを把握)
この段階でただの悪質な個人の投稿なのか、あるいは組織的・社会的な関心を集める問題に発展しているのかを見極めることが、今後の方針決定の基準になります。
関係部署を迅速に招集し、初期対応チームを編成する
状況把握ができたら、次は社内での緊急体制を整えることが求められます。
関係部署がバラバラに動いてしまうと情報が錯綜し混乱を招くため、一元管理が必要です。
・関係部署の代表者を招集する
・初期対応チームを立ち上げ、情報の集約窓口と意思決定ルートを明確化
・社内の全社員に「現在対応中であること」を通知し、不用意な情報発信を控えるよう注意喚起
また、状況によっては外部の専門家(弁護士やIT対策会社など)にも早期に相談し、必要な法的手続きや技術的な対応を検討します。
対応方針の仮決定と情報共有
チームが編成されたら、現在の情報をもとに初期対応の方針を仮決定し、社内全体に共有します。
・今後の流れを想定したスケジュールの作成とタスク分担
・対外発表が必要かどうか、発表する場合のタイミング、使用する媒体の決定
・顧客や取引先からの問い合わせがあった場合の対応テンプレート・FAQの準備
ここで大切なのは、「全社的に同じ情報・同じ方向性で動けるようにすること」です。
部門ごとに認識が違ったり、矛盾した対応をとったりすると、火消しどころか炎上を助長する原因となるので注意してください。
対外対応のポイント│誠実で冷静な発信がカギ
風評被害が拡大するかどうかは、企業の対外的な対応姿勢に大きく左右されます。
特に、最初のメッセージは世間からの印象を決定づけるため、慎重かつ戦略的に発信する必要があります。
ここでは、対外対応における重要なポイントを具体的に解説します。
発表のタイミングと媒体の選定
風評被害に関する発表は、早すぎても誤情報を広めるリスクがあり、遅すぎても「隠蔽していた」と見られるリスクがあります。
適切なタイミングでの発信が重要です。
発信のタイミング
状況をある程度把握した段階で、社内対応方針を固めてから発信するのが適しています。
使用する媒体
自社サイトやSNS公式アカウント、プレスリリースなど、情報の正確性を担保できるチャネルを選定します。
ターゲットに応じた媒体選び
一般消費者向けにはSNS、取引先や株主にはメールやFAXなどの直接連絡が有効です。
また、報道機関への対応もこの段階で必要になる場合があります。
事実と異なる報道や過剰な憶測が広がらないよう、記者会見やコメント発表での情報コントロールも検討しましょう。
誠実で一貫性のあるメッセージの発信
情報発信時には、誠実さと一貫性を最優先にした表現が求められます。事実を隠したり、誤魔化したりするような言い回しは、さらなる不信感を招きかねません。
事実関係の説明
確認できている事実と、調査中の事項を明確に区別する必要があります。
謝罪の有無
自社に非がある場合は、素早く謝罪文を掲載し、再発防止策も明示してください。
責任逃れNG
被害者・関係者への配慮が感じられない発信は、炎上の火種となってしまいます。
表現のトーン
感情的な反論や攻撃的な文言は避け、冷静かつ丁寧な文章で対応しましょう。
例えば、「ご迷惑をおかけし申し訳ありません。現在、事実関係を確認中です。」というようなテンプレートは、誠実かつ状況を説明する上で効果的です。
顧客・取引先・株主など関係者への個別対応
風評被害が与える影響は、外部ステークホルダーにも及びます。
信頼を損ねないためには、直接的かつ丁寧なフォローが不可欠です。
まず主要顧客や取引先には個別に連絡を取り、現状説明と今後の対応方針を伝えます。
株主・出資者には、経営への影響や対応策を整理した文書を提供しましょう。
社内の営業・サポート部門とも連携し、問い合わせ対応マニュアルを作成することも大切です。
一方で、顧客からの問い合わせが急増するケースもあります。
カスタマーサポートやコールセンターには、想定問答(FAQ)を共有しておくことで、応対品質を維持できるでしょう。
継続的な情報発信で信頼を取り戻す
初期対応だけで終わるのではなく、状況の変化や調査結果、改善策についても段階的に公表することで企業の誠意が伝わり、信頼回復につながります。
進捗報告や第三者調査の結果など、定期的な情報発信はもちろん、経営層からのメッセージ発信(社長ブログや動画など)も行うと良いでしょう。
また、風評被害の収束後には再発防止策や改善報告を明示し、社会的責任を果たす姿勢を示すことも大切です。
企業が「逃げずに真摯に対応している」と感じさせることで、世論の流れをプラスに転換させます。
法的対応と削除依頼│専門家との連携が効果的
風評被害への対応は、企業の誠実な発信や社内体制の整備だけでは十分でない場合もあります。
特に誹謗中傷や虚偽情報の拡散が悪質である場合は、法的手段を視野に入れた対応が必要です。
ここでは、法的対応の基本とIT面での削除依頼について、専門家と連携する重要性を解説します。
名誉毀損や虚偽情報に対する法的措置
風評被害の中でも、明らかに事実に反する内容や個人・企業の名誉を傷つける誹謗中傷は、法律に基づく対応が可能です。
名誉毀損罪や業務妨害罪に該当する投稿や記事を確認した上で、被害内容の証拠を収集します。
証拠となりやすいのは以下の情報・資料です。
・該当記事や投稿のスクリーンショット
・投稿日時の記録
・発信者の特定状況
法的措置を取る場合は弁護士に相談し、警告書の送付や損害賠償請求、刑事告訴を検討します。
訴訟に踏み切る前に、まずは内容証明郵便などの警告で解決を目指すケースも多いです。
法的対応は時間とコストがかかるため、リスクや効果をよく検討した上で進めることが重要となります。
いずれにせよ、なるべく早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。
掲示板やSNS、検索エンジンへの削除依頼
法的措置と並行して、インターネット上の有害情報の速やかな削除も重要な対策です。
ただし、ネット上の情報削除は簡単ではなく、運営側の規約や法的根拠に基づく手続きが必要となります。
誹謗中傷や虚偽投稿などに対して、掲示板・SNSの運営会社に対して削除依頼を行います。
削除申請には、発信者の特定や被害内容の詳細説明、法的根拠の提示が求められることが多いです。
また、SNSだけでなくGoogleなどの検索エンジンに対する「検索結果からの削除要請」も可能となります。
検索結果からの削除要請は、Googleのガイドラインを確認し、名誉棄損などの理由が該当するか確認しておきましょう。
専門知識が求められるため、IT対策に強い法律事務所やネットワーク専門会社と連携して、効率的に進めるのが望ましいです。
IT対策会社との連携で監視と被害拡大防止
風評被害の拡散を防ぐためには、情報監視ツールやリスク管理サービスを活用することも有効です。
これにより、被害情報の早期発見と迅速な対応が可能となります。
例えば企業名や製品名、関係者名などのキーワード監視や炎上の予兆を検知するシステムの導入、削除依頼や対策の実務代行サービスなどが挙げられます。
また、こうしたツールやサービスを利用すると定期レポートを受け取れる場合もありますが、そのレポート内容を見てリスク管理と対応策の見直しを図ることも可能です。
これらのサービスは、社内だけでの対応が困難なケースにおいて心強いサポートとなります。
風評被害が悪質化した場合、法的対応や削除依頼は専門家のサポートなしでは難航しやすいのが現実です。
弁護士やIT対策のプロと連携することで、法的根拠に基づいた正当な対応を迅速に進められます。
また、専門家の関与は、社内のリソースを節約しつつ、効果的な対策を展開できるというメリットもあります。
風評被害の被害拡大を防ぐため、状況に応じて積極的に相談・依頼を検討しましょう。
風評被害は、企業の信用やブランド価値を一瞬で揺るがしかねない重大なリスクです。
しかし、的確で冷静な対応をとることで被害の拡大を防ぎ、信頼を回復することもできます。
特に誠実で一貫性のある情報発信、そして専門家との連携による法的対応・IT対策は、再炎上や誤解の拡大を防ぐ上で欠かせないステップと言えるでしょう。
風評被害は「いつ・誰にでも起こり得る」リスクであり、起きてから慌てるのではなく、日頃から備えておくことも大切です。
万が一被害に直面した場合も、社内外の信頼を守るため、落ち着いて段階的に対応していきましょう。
必要であれば、迷わず専門家のサポートを仰ぐことが最善の道となります。

















